福祉経済委員会 視察研修所感
氏名 神谷昌宏
平成19年10月17日(水)〜19日(金)の3日間、福祉経済委員会のメンバー8名と当局2名の合計10名で行政視察に行って参りました。
視察項目は
についてであります。
以下、視察地ごとに報告します。
栃木県佐野市 乳児全戸訪問事業について
栃木県佐野市では、平成18年4月より乳児全戸訪問事業を開始しましたが、導入のきっかけは次のような理由からです。以前は、母子健康手帳交付の面接時において、若年妊娠や身近に相談者・協力者がいないなど気になる妊婦に接する機会は、出産後4ヶ月健診の時ということになっていました。その間、訪問依頼のあった希望者には新生児訪問を実施していましたが、全体の2割ほどの実施率で、事業のPRをしても実施率は横ばい状態でした。このように状況の中、栃木県内でも幼児の殺害や虐待の事件が相次いで起こり、各地で講演会などが開催される状況の中、平成16年及び17年の議会において、「家庭という密室で行われる虐待は1軒1軒訪問して子育ての不安解消など、指導の中から防止されていくのではないか」、「母親の孤立化を避けなければ」との乳児全戸訪問についての一般質問や要望がされるようになり、検討を重ねた結果、平成18年度より事業導入することとなったものです。
刈谷市でも来年度から『第1子を対象とした家庭訪問事業』を行います。そして、私もそのことについて9月議会一般質問で取り上げたこともあり、今回の事業を先進的に行っているこの視察は大変興味がありました。一番の関心は「この事業に従事する者の体制はどのようか」ということと「親の反応はどのようなものか」という点でした。
体制としては佐野市の場合、メインとなる助産師1名を非常勤の助産師2名、4名の保健師が補助しているという体制でした。そして、メインとなる助産師一人で全訪問先の約70%をカバーしていました。昨年1年間の対象者(新生児)が959件ですから約680件を一人の助産師で訪問していることになります。更に驚いたのは、対象とする家庭のほぼ100%(2件のみ訪問できず)全てを訪問することが出来ていることであります。刈谷市として今回の事業を実施するにあたり最も危惧する点は「自宅への訪問を拒否されることなくきちんと受け入れてくれるか」という事だと思います。その点については、助産師という専門家が訪問することも大切ですが、訪問するためのきっかけ作り、そのためのトークも非常に重要であると感じました。佐野市の場合は、「予報接種の受け方が変わったからその説明に・・・」という事から入って、相手の様子を見て話を深めてゆくようでした。その結果、訪問時間も様々で、10分ほどで終わる家庭から、1時間半ほどじっくり話をしてくるご家庭もあるとのことでした。また、1回の訪問で終わるのではなく、継続支援の必要なご家庭も約5%、43件ほどあるようでした。こういった家庭では、虐待等の恐れもあるため、地区担当の保健師や業務担当の保健師による再訪問を行ったり、場合によっては役所内の他の課と連携したり、保健所・児童相談所などと共にその後の対応に当たっているとのことでありました。「予防接種の受け方・・・」を切り口として、比較的スムーズに訪問が出来ていること、またこのメインとなる助産師のキャラクターに負うところも多いと思われますが、親御さんの反応は非常に良く、好評で大変喜ばれている事業でありました。
この事業の効果につきましては、
- 第1子では初めての子育てに対する不安の軽減、第2子以降については同時にその後の子育ての相談もあり、それらの不安の軽減につながっている。
- 予防接種や健診などを訪問時に説明することで、個人の状況に合わせた指導や情報提供ができる。
- 継続支援などのフォロー対象者の早期発見ができ、その後の乳幼児健診につなげられる
- 乳房ケアの病院が少ないため、訪問時において母乳相談・マッサージなどを実施することにより、母乳保育の継続ができるようになる。
- 全戸訪問により、保健センターが認知されることにより、センターとのつながりや担当者との信頼関係ができ、子育てに対する電話相談が増加した。
などといったことが挙げられていました。
また、非常勤の助産師の報酬は1日6600円でした。刈谷市の場合、メインとなる助産師(正規雇用の職員)が存在せず、「1日いくら」といった報酬でお願いする非常勤の助産師ばかりで事業がスタートするのではないかと思われます。今回の佐野市の事例を見る限りでは「この事業専属の助産師(正規職員)が必要である」ということを強く感じました。刈谷市では当初第1子だけを対象としての実施ですが、今後「全戸訪問」にまで拡充してゆくには、「メインとなる専属助産師を配置する」といったスタッフの体制作りが肝要であると思います。
また、今回の視察項目とは直接関係のない事柄でありますが、子育て支援策の一環として、第3子以降の子の出産に対しては、2つの事業から合計で30万円の支給がされているようで、現在の刈谷市にはない制度として魅力に感じました。
千葉県習志野市 幼保一元化施設『東習志野こども園』について
今回の視察先であります、幼保一元化施設『東習志野こども園』は、一言で言うと「幼稚園と保育園の垣根を取っ払って、一つの施設の中で幼稚園児と保育園児が生活している」ということです。今でこそこういったスタイルが法的に認められるようになりましたが、これまでは幼稚園の設置に対する学校教育法と保育所の設置に対する児童福祉法との間には高いハードルが存在していました。そのハードルを取っ払うべくこの『東習志野こども園』では、平成16年12月に[幼稚園と保育所の合同保育における特区認定]を受け、いわばこのスタイルの先駆けとなった施設であります。
0歳〜3歳児については従来の保育所の内容ですが、4・5歳児についてがこの幼保一元化の特徴的なところであります。4・5歳児を[短時間児]と[長時間児]とに区分して、[短時間児]は基本的には午後2時までの保育(預かり保育は午後5時まで)、[長時間児]は午後7時までの保育を行っていました。保育料についても、[短時間児]は従来の幼稚園での保育料(1ヶ月8800円+給食費日額225円)、[長時間児]は従来の保育所での保育料(習志野市保育の実施に要する費用の徴収に関する規則に基づく、保護者の所得に応じた保育料)であります。
ここ数年、こうした幼保一元化施設は増えてきていますが、「幼保一元化」と言ったときのイメージとして私はこれまで、「敷地・施設は共通だが、その中の保育室ごとに幼稚園児と保育園児を分けているのだろう」と思っていました。もちろんそのようなスタイルの幼保一元化施設もあるようですが、この『東習志野こども園』では1つのクラスに短時間児(幼稚園児)と長時間児(保育園児)を一緒にしての合同保育を行っていました。
幼保一元化によるメリット・デメリットをお聞きしたところ、次のような回答がありました。
- 0歳〜5歳児と年齢層が幅広いため、異なる年齢による刺激がある。(年上の子が年下の子の面倒をみる)
- 自宅が隣同士でも、子供が保育園と幼稚園で違っていれば、従来は近所づきあいがあまりなかったが、同じ[こども園]に通うことで、この点が解消された。
- 保育園と幼稚園、サービスの高い方に合わせて行われるので父兄にとっては嬉しい。(保育園でも英語授業など幼稚園での教育が受けられる)
- 保育園と幼稚園で行っていた行事を全て取り入れるので忙しい(子供の緊張が高まる)
- 短時間児が降園するとき、長時間児にとっては不安になる←2ヶ月ほどで落ち着く
そもそもこうした幼保一元化施設が作られてきた背景は、[幼稚園において希望者が減少する一方で、保育園において待機児童が生じていること]があります、そして従来のように「親が勤めているかどうかで保育園へ行くのか幼稚園へ行くのか」という仕組みではなく、「どちらも同じ子供じゃないか」という考えに立脚して、子育て支援の立場から垣根を取り払って考え、サービスを提供するという点にあります。そういった意味では、刈谷市において今回のような幼保一元化施設を設置する必要があるかどうかは別にして、現在刈谷市において保育園への入園条件の一つである[母親が仕事をしていること]は、今後緩和してゆく必要があるのではないかと思いました。
また、これも今回の視察項目とは直接関係のない事柄でありますが、このこども園の建物の中に[適応指導教室]が設けられていました。不登校の小中学校生が通っていますこの[適応指導教室]では、それらの児童・生徒と園児との交流が行われており、その中で「園児から頼りにされる存在であることを経験すること」が不登校の解消にも非常に役に立つようでありました。刈谷市における適応指導教室のあり方、施設整備の場所等、ぜひこの事実を参考にすべきであると思います。
千葉県柏市 リサイクルプラザについて
このリサイクルプラザは2つの役割を持っています。1つは、資源品を選別し、梱包して問屋や工場への出荷を準備する施設であり、もう1つは、ごみの減量やリサイクルのことを学ぶ施設としての役割です。資源品のリサイクルとしては、
- 古着・古布類
- 金属類
- 缶類(スチール缶・アルミ缶)
- ビン類
- 古紙類(新聞・段ボール・雑誌・紙パック)
- ペットボトル
について行っていました。平成14年に竣工し、建設費は約33億7000万円、用地費は約15億2000万円、敷地面積約11800m²、延べ床面積約7700m²の施設です。市内各地のごみステーションから引き取り、この工場で中間処理を行い、問屋や工場へ出荷するといった資源ゴミに対する全ての業務を、市内20の業者で組織している協業組合が請け負っていました。その組合に対する委託料が年間約6億7000万円、そしてそれ以外に施設の光熱費が約2000万円、修繕費が約3800万円ということですので、年間のランニングコストは約7億2800万円ということになります。それに対して収入は、資源品の売却収入ということですが、近年資源品の市況が良く昨年度は約3億5000万円の収入があったそうであります。つまり、差し引き年間約3億7800万円の経費が掛かる施設と言えるわけであります。一方、刈谷市にはこういったいわば「リサイクル工場」といったものはなく、資源ごみとして排出されるものは中間処理業者において処理されています。イニシャルコスト、ランニングコストを考えれば、刈谷市の場合は現在のやり方の方が良いように思います。しかし柏市リサイクルプラザのもう一つの目的である[ごみ減量やリサイクルのことを学ぶ施設としての役割]、これは非常に重要であると思います。
今回、集められた資源ごみの中から異物を取り除くラインでの作業状況を見させてもらいましたが、こういった機会は出来る限り多くの市民の方に見てもらう必要があるのではないかと思います。「空き缶の中にたばこの吸い殻を入れない」「ペットボトルのふたは取って出す」「ビンの中は空にする」「ガスボンベは穴をあけて出す」など、ちょっとしたことでも守られていないことが多いものです。そうした適切なごみの出し方の啓発のためにも実際の作業現場を見学してみることは大切であると思います。
柏市の資源化率(家庭から出されるごみ量のうち、リサイクルされる資源品量の割合)は全国でもトップクラスとのことであります。このことは市民ひとり一人のリサイクルに対する意識の高さを物語っていることであり、大いに学ぶべき点であると感じました。