政務調査についての所感

自民クラブ 神谷昌宏

平成20年7月2日(水)〜4日(金)の3日間、自民クラブのメンバー7名と公明クラブのメンバー1名の総勢8名で行政視察に行って参りました。

視察項目は

  1. 岡山県倉敷市 英語教育総合推進プロジェクトについて
  2. 広島県呉市 小中一貫教育について
  3. 広島県広島市 行政評価制度について

であります。
それぞれの項目毎に報告いたしますと

  1. 岡山県倉敷市 英語教育総合推進プロジェクトについて
    1. 事業導入の経緯及び目的について

      前市長のマニフェスト、倉敷市の「ひと、輝くまち 倉敷。」地域再生計画に基づく「国際文化都市くらしき」構想実現のため、英語教育の推進に取り組むことになったのが始まりです。国から平成16年12月に「国際文化都市倉敷」英語教育推進特区の認定を受け、平成17年度から幼稚園・小学校・中学校の連携を図った、今回の視察項目である「英語教育総合推進プロジェクト」を策定しました。

    2. 事業内容について

      大きな柱としては次の2点です。

      1. 小学校において「英語科」を設置している
        小学校の3・4学年では年間20時間、5・6学年では年間35時間、英語を正規の授業として行っているものです。「正規の授業」とは、つまり小学校の通知表に「英語」の評定がされるということです。これまでも、小学校において英語の授業に取り組んでいる自治体を視察したことはありますが、これらはあくまで総合学習の中で行われ、英語習得が主たる目的ではなく、「英語に親しむ」あるいは「国際理解」といったことが目的の授業でありました。今回倉敷市において、英語科として1つの教科に位置づけたことは特筆すべきことであると思います。尚、「英語科」授業の半分は外国人英語講師等がティームティーチングを行っているとのことでした。
      2. 中学校における英語授業時間数を年間105時間から140時間に拡充している
        総合学習の時間を削って、外国人英語講師等の単独による授業を週1時間実施しているとのことです。日本人教師と外国人英語講師ペアーによるT・Tではなく外国人英語講師等が単独で行っている点も、「ネイティブの英語だけに触れる授業」という意味では非常に意義のあることであると思います。

      これらの事業実施のため倉敷市では[外国人英語講師プログラム]を充実させていました。具体的には、42名の外国人講師を市が単独で採用し、そのための予算として年間約2億5500万円が計上されていました。但し、優秀な講師を市が直接雇用することには限界があるため、42名中10名については民間業者に業務委託をしているとのことでした。

      その他、幼稚園4歳児と5歳児、小学校低学年の児童を対象として、諸外国の遊びや文化などの国際理解の基礎を培うことを目的とした[くらしきグローバルフレンドシップ事業]の実施や、[市長杯中学校英語スピーチコンテスト]の開催など、国際人として人材の養成を目指して、各種の事業展開がなされていました。

    3. 事業の効果及び刈谷市での取り組みについて

      小学校英語科の成果としては、覚えた英語を使って積極的に話そうとする姿勢が見られるようになったり、外国人に対する抵抗感も少なくなっているように思われるとのことでした。中学校の外国人英語講師等の単独による授業の成果としては、特にリスニングの力がついてきているとの分析でした。既に、小学校で英語科の授業を受けた生徒が中学校に入学してきており、その子らを見ていると、話すことや聞くことに対して抵抗感が少なく、積極的にコミュニケーション活動に取り組んでいる様子とのこと、また英語検定に対しても積極的に受験しようとする雰囲気があるようです。

      今後の課題としては、学習指導要領の改訂に伴い、平成21年度から小学校5・6年生については年間35時間の外国語活動が導入されますが、その授業と現在の小学校英語科指導方針や年間指導計画との兼ね合いが難しいのではないかと思います。

      そして、そのことを刈谷市に置き換えて考えてみますと、学習指導要領の改訂に伴い平成21年度から導入される外国語活動について、単なる「英語に親しむ」「国際理解」といった段階に終わらせるのではなく、この機会に更に1歩踏み込んで、今回の倉敷市のような取り組みをすることも意義のあることではないかと感じました。

  2. 広島県呉市 小中一貫教育について

    現在の義務教育6・3制での問題点

    • 「いじめ」や「不登校」の急増(特に中学校入学時)
    • 予想以上に大きい中学校入学時の不安
    • 学習意欲と確かな学力の低下
    • 長年にわたってつくられた,小学校と中学校それぞれの固有の文化から起こる教職員の意識の違い

    それらを解決しながら、義務教育9年間で「指導内容」と「指導方法」に一貫性を持たせた小中一貫教育のねらいとしては

    • 義務教育を修了するにふさわしい確かな学力と人間関係力の育成
    • 中学校入学時の余分な不安の解消と自尊感情の回復

    として、平成12年5月より、小中一貫教育に関する先行研究を公立学校では皆無という状況の中スタートさせました。

    そして平成18年4月、「呉市立の全ての中学校区で小中一貫教育を実施する」との構想を教育委員会が発表し、平成19年4月に初の小中一貫教育校である[呉中央学園]が開校、その他の全ての公立小中学校で、小中一貫教育の全面実施が開始されました。


    以上が、小中一貫教育の目的と実施までの流れですが、どうしてもよく判らなかったこととして「小中一貫教育校である[呉中央学園]開校と、その他の公立小中学校での小中一貫教育の全面実施が開始」との意味するところでした。つまり小中一貫教育とは、小学生と中学生が同じ校舎で9年間を過ごし、学習指導要領も9年間を1つの流れとしたものに組み替えて行うものだと思っていました。わかり易いたとえで言うと、6年間終了した時の卒業式やその後の中学校に入る際の入学式もない、完全な9年間の小中一貫といったイメージをしていたのですが、実際はそういった形での小中一貫教育ではありませんでした。

    確かに、呉中央学園は隣接する小中学校での小中一貫教育校ですので、中学の校舎に小学生の教室があったり、生活も共にし、1つの学校として経営されていますが、その他の地理的に離れている小中学校での小中一貫教育というものは、児童生徒は1つの敷地で生活を共にするわけではなく、計画的に行われる交流に止まり、9年間の一貫したカリュキラムについても、小中での接続部分(5・6・7年)に焦点をあてた特定の教科・領域での取り組みに止まっており、小学校と中学校はあくまでそれぞれの学校として経営されている、[小中一貫教育校]というよりも小中での連携強化といった感じの取り組みでした。従って、視察前にイメージしていた小中一貫教育とは大きく違うものでありました。但し、今回の呉中央学園開校までの流れを見てみますと、別の意味での発見と言いますか勉強になることがあります。それは少子化による小学校の廃校あるいは統合といった流れです。今回の呉中央学園は2つの小学校と1つの中学校が統合して開校しました。その背景には、そもそも2つの小学校を児童数の減少により統合しなければならない事情があったようです。単に小学校を統合するだけでなく、中学校と一緒にして義務教育9年間を1つの学校にしてしまう取り組み、今後ますます少子化が進んでゆくとこうした流れは全国の自治体で起こってくる、今回の呉市の取り組みはそのさきがけとしての意味があるのかもしれないと思いました。

  3. 広島県広島市 行政評価制度について

    ここ数年全国の自治体において、[行政評価制度]が取り入れられています。ではそもそも行政評価とは何かというと「広島市が行っている行政活動(施策・事務事業)を市民に対してどのように成果を上げたのかという観点から、一定の基準・視点や手段に従って客観的に評価し、その結果を改革・改善に結びつけ、市政運営の質的向上を図るとともに、市民に分かりやすく説明することによって、行政活動の透明性や市民満足度を最大限に高める手法」です。これによって、職員一人一人が自らの仕事に明確な目的意識を持つことができ、より効果的・効率的な市政運営を図ることが出来ると思います。また、目指すべき目標数値とその達成状況をHPに全て掲載することにより、市の仕事の取組状況や成果を数値で評価し、行政の説明責任を果たすとともに、情報の共有化を促進し市民の市政への参画を促す効果もあるのではないかと思います。

    その評価については、外部に委託して評価を受けている自治体もありますが、広島市の場合は自ら内部の職員において評価を行っていました。評価は、担当部局が行う一次評価と、企画調整部等で行う二次評価に分かれ、一次評価については、担当部長が施策評価を、担当課長が事務事業評価を行い、その責任を明確にするため、評価票に一次評価者の役職・氏名・電話番号、メールアドレスを記載していました。

    二次評価については、企画調整部(企画第一・第二・第三担当)、行政改革推進課、人事課及び財政課の課長級職員で構成する行政評価推進委員会が行っていました。

    評価の内容は次のとおりで

    1. 目標数値の達成状況を、晴(100%以上)、曇(80%以上100%未満)、雨(80%未満)で表示していました。そして、達成できなかった要因等についても記載していました。
    2. 目標数値の達成状況等を踏まえ、今後の課題や取組方針を記載するとともに、「今後の方向」として、施策評価は「注力(→、↑)」の判定を、事務事業評価は、「A、B、C、D」による今後の進め方の判定していました。
      ※今後の方向の判定については
      施策評価の注力「→」:これまでどおり力を入れるもの
      施策評価の注力「↑」:これまで以上に力を入れるもの
      事務事業評価「A」:計画どおり事務事業を進めることが適当であるもの
      事務事業評価「B」:事務事業の進め方の改善を検討する必要があるもの
      事務事業評価「C」:事務事業の規模・内容の見直しを検討する必要があるもの
      事務事業評価「D」:事務事業の抜本的見直し、休・廃止を検討する必要があるもの
    3. 施策の「今後の方向」の判定に当たっては、目標数値の達成状況だけで機械的に行うのではなく、市民ニーズや社会情勢などを踏まえて、それが適切であるかどうかを十分検討し決定しているとのことです。

    2006年度(平成18年度)分の評価結果の概要は次のとおりです。

    1. 施策評価(247件)
      • 目標数値の達成状況   晴:150件(61%)、曇:77件(31%)、雨:20件(8%)
      • 今後の方向(二次評価) →:181件(73%)、↑:66件(27%)
    2. 事務事業評価(605件)
      • 目標数値の達成状況   晴:366件(61%)、曇:190件(31%)、雨:49件(8%)
      • 今後の方向(二次評価) A:245件(40%)、B:313件(52%)、C:25件(4%)、D:22件(4%)

    昨年から、首長選挙においても選挙期間中にマニフェストの書かれたビラを配ることが許されるようになりました。それにより、従来のような単なるスローガンを訴える選挙から「具体的な数値目標と達成期限、裏づけとなる財源を示した政策本位の選挙」に変わってきました。そしてこれらの具体的政策に対しての達成度合いをチェックすることも大切なことであります。そういった意味では、マニフェスト型選挙と今回のような行政評価制度とは正に一体のものであり、こうした地方自治における政策と評価の情報公開は今後益々求められてゆくであろうと思います。

    但、ひとつ気になったのは、単年度で目標数値の設定とその評価を行うために、評価を前提にした次の数値目標設定のプロセスにどうしてもタイムラグが生じてしまう点です。本来は、行政評価の結果を翌年度の予算編成や人員体制の見直しにタイムリー生かすことが出来るべきで、その点については今後制度の見直しを図る必要もあるのではないかと思います。