議会運営委員会 視察研修所感

氏名 神谷昌宏

平成22年11月10日(水)〜12日(金)の3日間、議会運営委員会のメンバー9名と正副議長、当局2名の合計13名で行政視察に行って参りました。

視察項目は

  1. 宮城県岩沼市 議会だより構造改革及び議会基本条例の制定について
  2. 福島県二本松市 行財政改革調査特別委員会について
  3. 福島県会津若松市 議会基本条例の制定について

であります。
東北ということで、気温が低いのではないかと心配していたのですが、3日間とも穏かな気候で、いずれの調査項目も非常に充実した内容で行うことができました。以下、視察地ごとに報告します。

  1. 宮城県岩沼市 議会だより構造改革及び議会基本条例の制定について

    ここでの調査項目は[議会だより構造改革]と[議会基本条例]の2点ありました。先ず[議会だより構造改革]についてです。「構造改革」と言うと何か難しいことをするようなイメージになりますが、判りやすく表現すると、年4回発行している[議会だより]を市民の関心を引く内容にリニューアルしたということです。そのポイントしては・・・

    1. ユニバーサルデザインフォント字体を用いる
      文字のサイズもこれまでの9ポイントから11ポイントに拡大しました。輪郭がはっきりした丸ゴシック体ですから実際には12ポイント大のように確かに非常に見やすくなっています。[ユニバーサルデザインフォント]というのは始めて聞いた言葉ですから、刈谷市の議会だよりや私自身のレポートでも活用できないか一度調べてみようと思います。
    2. 新しいコーナーとして『追跡ビフォー→アフター』を設けた
      議員が過去に取り上げた行政課題に対して、その後市当局はどのように取り組んでいるかを紹介するコーナーです。一般質問での議論がきちんとフォーローされていて、一般質問が「言いっぱなし」に終わるのでない、市民にとって非常に判りやすいコーナーであると思います。
    3. 新しいコーナーとして『みんなの議会』を設けた
      市民が議会に望むことや、議会と執行部側の議論に対する市民の意見を紹介した[私もひとこと]のコーナーでは、議員が直接市民に取材して来たものを編集して掲載していました。また傍聴者の感想を掲載している[傍聴席から]のコーナーでは、議員に対して手厳しい指摘も掲載されており、議会だよりが単に議会の情報を一方的に市民に伝えるツールに止まるのではなく、双方向でやり取りをする市民参加の議会だよりといった印象を持ちました。
    4. 定例会の内容は審議過程も掲載するよう工夫されている
      定例会の概要報告は単に採決結果を載せるだけでなく、どんな討論が行なわれたかの審議過程も掲載してありました。これにより読む側にとっては、それぞれの議案に対しての関心がかなり高まるのではないかと思います。

    その他、市議会のホームページ改革も進めており、政務調査費の収支や視察の報告書をホームページ上に公開するということを始めたとのことでした。

    次に、[議会基本条例]についてであります。この中では2つの切り口から勉強になりました。

    1つは、議会基本条例制定までのプロセス=どのように会派間の意見集約を図ったかという点です。これについては、各会派(当時6会派)ごとに、それぞれの会派が考える議会基本条例案を作成し、議会運営委員会の場で各条項のすり合わせを行う方法で検討が進められました。各会派の作成した6つの条例案のすりあわせ作業はなかなか難しい局面もあったようで、作業の効率化を図るため、考え方の近い会派が合同案を調整し(4会派合同案と2会派合同案)、最終的には2案のすり合わせ作業を行い1つの条例案にまとめたとのことでした。尚、議会事務局はどのように関わったかと言うと、条例案がまとまったところで、条例としての体裁を整える作業及び条文において執行部に関わる規定についての執行部との調整作業を行ったとのことです。

    そしてもう1つの切り口は、議会基本条例の中身そのものについてです。私は、一般的に議会基本条例に謳われている項目の中で、これまでの刈谷市議会では行われていなかった事柄としてポイントになるのは、[一般会議][議会報告会][自由討議][当局からの反問権]の4項目であると思っています。これらの内、岩沼市においては[当局からの反問権]は規定されていませんでしたが、他の3項目についてはきちんと条例の中に入っていました。そのうち[一般会議][自由討議]については、実施に向けての条件整備として要領案を各会派に提案してもらっている段階であり、[議会報告会]については、要領も作られ実際に行なわれていましたが、資料として示された平成22年10月16日に実施した議会報告会の報告書によりますと、来場者は各回僅かに5名だけということで、条例としては完成していても、その目的に対する実効性という点では甚だ疑問に思いました。

  2. 福島県二本松市 行財政改革調査特別委員会について

    二本松市においてこの[行財政改革調査特別委員会]が出来たのは次のような経緯からです・・・

    平成18年7月に、二本松市議会に対する財政状況説明会で示された、「毎年20億円程度の財源が不足する」との現状に不安を感じ、「市当局はどのような行財政の改革を行い、この危機的な状況を乗り切ろうとしているのか」を調査するために、平成18年12月定例会において設置されました。具体的な調査項目としては・・・

    1. 行財政運営の現況と課題及び具体的な方策
    2. 健全な財政状況のあり方
    3. 議会の改革

    の3つに絞り、33回の委員会が開催されていました。その結果行なわれた改革としては

    1. 事務事業の整理再編、コスト意識の徹底
    2. 定員適正化計画
    3. 給与の適正化
    4. 収入アップのための施策
    5. 市民と行政のパートナーシップの確立
    6. 第3セクター、市出資法人の見直し
    7. 公営企業の見直し

    であり、これらの累計により平成17年から平成21年までの5年間で38億8,276万円の改革効果が出ているとのことでした。行財政改革は市当局だけで出来るものではありません。市民が痛みを伴うものなど、市民と行政とが心を1つにして一緒になって進めて行かねばなりません。そういった意味では、個々の事業について所管の委員会だけで議論するのではなく、「行財政改革」といった視点に絞り、所管横断的な切り口から議会においても議論してゆくことは非常に意義のあることだと感じました。

    また、行財政改革を論ずる際には議会改革も同時に進めて行かねばなりません。その点については、33回の委員会の内3分の1以上を議会改革についての議論に時間を割いておられました。内容としては・・・

    1. 議員定数の考え方について
    2. 議員報酬の考え方について
    3. 行政視察のあり方について
    4. 議員日当等の廃止
    5. 議会においての音声システムの導入
    6. 議会傍聴席において録音、写真撮影を認めるべきではないか
    7. 議長公用車の廃止について
    8. 議長、副議長は会派を抜け、無所属となること
    9. 行機関の付属機関等への議員の就任辞退
    10. 議会の議決権の拡大
    11. 議会の情報収集権、資料請求権の確保
    12. 当局から独立した事務局を持つ議会
    13. 議会の会期の拡大
    14. 議会独自の情報収集の場の設置と市民と政策をつくる議会
    15. 議会の質を高めるための改革
    16. 開かれた議会とするための改革
    17. 執行機関と馴れ合わない議会
    18. 民意をより反映する選挙制度の研究

    というものでした。このうち、議員定数が従来の30名から26名に削減されたり、視察や出張時の日当については廃止が妥当であるということで意見の一致を見た項目もありましたが、議題としてきた多くの項目において結論が出されることはなかったようです。こうした他市の状況から「当局の行財政改革に比べて、議会を改革してゆくことは本当に難しいことだ」と改めて感じました。

  3. 福島県会津若松市 議会基本条例の制定について

    昨日の二本松市において議会事務局長様より「明日訪問される会津若松市の議会改革はかなり進んでいて、この東北地方の議会改革のお手本となっている市ですから」と聞いていましたので、その改革の内容にとても期待をして視察に臨みました。広報公聴委員会の委員長である松崎新議員の話から、会津若松市の議会改革がかなり進んでいることをうかがい知る事が出来ました。会津若松市議会では、議会基本条例を「市民の意見、提言を元にして政策をつくる道具」と規定し、条例に明記した市民との意見交換会、広報広聴委員会による課題整理、議員間の政策討論会を使った「政策形成サイクル」が確立されていました。

    意見交換会とは、市民との活発な意見交換を図る場として年2回開催されており、小学校区ごとの15地区で行なう[地区別意見交換会]と、行政分野ごとに行なう[分野別意見交換会]の2種類があります。[地区別意見交換会]では全議員が6名ずつ5班に分かれそれぞれの会場で、議会の報告と同時に市民の声を聴取して行くのです。そして、出された意見を広報広聴委員会と各会派の代表者会議において検討すべきテーマを絞り込み、議員間で行なわれる政策討論会においてそれぞれの議員あるいは会派としての主張を戦わせ、1つの政策として作り上げて行くものです。過去5回行なわれた[地区別意見交換会]への市民参加者は1会場当たり平均1回目19.6人、2回目16.5人、3回目19.5人、4回目10.9人、5回目14.8人という実績でした。「毎回同じような顔ぶれが参加しているのではないか」「市民の意見を吸い上げる場にしては参加者が少ないのではないか」といった疑問もありますが、これまでどちらかと言うと当局に対するチェック機関の色彩が強かった議会が、市民の声を反映させた政策を提案する議会になることは非常に意義のあることだと感じました。ただそうは言っても、今回の会津若松市議会の取り組みについて私としてはどうしても腹に落とせない(納得できない)点があります。それは「そもそも市民の声を聞くという活動は、オール議会としてやることなのだろうか?」という事です。つまり、今回の「政策形成サイクル」のうち、[課題の整理]→[議員間の政策討論会]は議会として重要であり、そこから生まれた政策は市民目線に立ったとても良いものだと思いますので議会として行なう意義は非常に高いと思うのですが、その前に行なう[市民の声を聞く]という活動は、それこそ議員一人ひとりにとって最も大切な議員活動のベースにあるものであり、個々の議員の責任においてすべきものではないかと思うのです。どれだけ多くの市民の声を聞き、それを政策として実現させるか・・・その評価はそれぞれの議員に4年に1度、選挙という形で下されるのだと思います。

    「刈谷市議会においても議会基本条例制定に向けての研究会を立ち上げよう」我々自民クラブではそのように主張しています。今後その方向での議論が進んだ時に注意しなければいけないと思える点を、私は今回の視察を通じて2点感じました。1点目は[議会]としての役割と[個々の議員]としての役割、その2つをきちんと分けて議論する必要性があるということです。2点目は、議会基本条例を制定すること自体が目的になってしまわないようにするということです。そのためには、その条例で謳ったことを具体化するための要領等を同時に考え、条例を実効性のあるものにして行かねばならないと強く感じました。