視察研修所感

志誠会 神谷昌宏

平成24年7月10日(火)〜12日(木)の3日間、志誠会のメンバー2名と公明クラブのメンバー2名の総勢4名で行政視察に行って参りました。

視察項目は

  1. 千歳市 防災学習交流施設事業について
  2. 札幌市 スイーツ王国さっぽろ推進協議会の取り組みについて
  3. 小樽市 小樽・北しりべし成年後見センターの設置について

の3項目です。また、当初の予定には入っていませんでしたが、移動等により空いた時間を有効に使って、小樽市総合博物館についても視察を行って参りました。それぞれの項目毎に報告いたしますと・・・

  1. 千歳市 防災学習交流施設事業につい

    始めに、千歳市防災学習交流施設を説明する上で欠かせない、千歳市の防衛施設の現状について紹介しておきたいと思います。千歳市は自衛隊が市街地の三方を取り囲むような形状で、北東に陸上自衛隊東千歳駐屯地、南東に航空自衛隊千歳基地、南西に北千歳駐屯地が位置しており、しかも市街地の縁周部には、装軌車両、主に戦車が頻繁に通行する、延長約10Kmの公道、通称「C経路」が通っており、東千歳駐屯地と北千歳駐屯地、その奥に続く北海道大演習場を結んでいます。

    このC経路は、一部住宅地内を通ることから、沿線住民から騒音振動による被害等が寄せられ、市では、平成6年に@道路構造の改良、A緩衝地帯の配置、B交通安全対策、の3つを柱とする「C経路対策の基本方針」を定め、沿線地域の生活環境の改善に努めてきており、平成14年度に新たな国の補助制度として、防衛施設周辺のまちづくりに寄与すると考えられる施設等について、高率補助で自治体や地域住民に、防衛施設周辺地域の発展に積極的に貢献しようという「まちづくり構想策定支援事業」が創設されたことから、市はC経路沿道の地域における課題解決を図るため、本制度を活用し、「北海道大演習場周辺まちづくり構想」を策定しました。つまり、千歳市防災学習交流施設事業と言うのは、自衛隊基地対策として、国から沢山の補助金が出されている街づくり事業なのです(実際、施設建設の総事業費約21億円の内、千歳市の負担は僅か1億2000万円程度でありました)。

    この事業概要は、総事業面積は約10.3ha。それを3つに区分し、Aゾーン4.3haには防災学習交流センター[そなえーる]、広さ約2.4haの防災訓練広場、常設ヘリポート、駐車場などを配置しています。Bゾーン1.1haには造成に伴う雨水調整池と消火体験や救出体験が行える広場があります。Cゾーン3haには150人がキャンプ利用できる「野営訓練広場」、調整池を兼ねた「多目的広場」、湧き水を利用した「河川災害訓練広場」、アスレチック遊具などを設置した体を鍛える「サバイバル訓練広場」、この区域を管理するための管理棟、駐車場が配置されています。更に、C経路緑地1.9haは避難誘導路となっており植栽、散策路(園路)、休憩施設を設置し、災害時にはこの緑地帯を避難路として利用できるようになっていました。Aゾーンに建設されている防災学習交流センター「そなえーる」には、災害を「学ぶ」「体験する」、「備える」をテーマに、この施設での体験・学習を通じて防災に対する意識を高めてもらうことを目的として災害を擬似体験する設備があり、北海道内にある体験型の防災センターでは唯一、過去に起きた国内の大地震と同じ揺れが体験できることと、平常時では使用することのない避難器具を実際に体験ができることや広大な敷地面積を有した総合的な防災学習、防災活動の拠点施設です。今回我々も実際に様々な体験をして来ました。

    施設の利用者数については、平成22年4月24日にオープンし、平成22年度は37,644名、平成23年度は3月に発生した東日本大震災の影響で防災に関する意識が高まったこともあり、58,393名の利用者となっており、防災に対する関心が高まるとともに、市民・自主防災組織及び防災関係機関の資質向上が図られ、地域防災力がより一層向上しているとのことでした。

    刈谷市においては、これだけ広大なスペースもなく、また常設の防災施設といったものはありませんが、「実際に様々な体験をすることが大切!」との千歳市担当者の言葉を参考に、旧市民会館(アイリスホール)跡地に出来る防災公園(広場)において今後少しでも市民の防災力が向上するような取り組みをして行く必要があると感じました。

  2. 札幌市 スイーツ王国さっぽろ推進協議会の取り組みについて

    スイーツ王国さっぽろ推進協議会の設置に至る経緯は・・・札幌洋菓子協会では、平成17年から市内の洋菓子店が製作したチョコモンブランのレシピを会員企業に公開し、各店独自の工夫を加え販売する取り組みを開始しました。洋菓子産業の更なる振興を図るべく事業展開を模索していた同協会と、「食」を切り口とした産業振興を図りたい札幌市、地産地消を推進するフードランド北海道の事務局として、食産業振興の観点からスイーツの振興を図りたい札幌商工会議所に社団法人札幌観光協会を加えた4団体の協働により、平成17年11月に設立されました。

     協議会の設置目的としては・・・

    • 洋菓子の似合う街「スイーツ王国さっぽろ」の発信によるブランドイメージの確立。
    • 新たなスイーツの開発、新たなスイーツの楽しみ方(スタイル)の提案によりスイーツ普及、販路拡大を図る。
    • 市内及び道内の優れた食材の発掘とスイーツへの新たな活用方法を探り、北海道の食材 の価値を高め、普及を促進する。
    • スイーツ文化、産業を支える人材の育成を図る。

    といったことが挙げられます。

     取り組みによる実績・効果としては・・・
    【スイーツコンペティション】(2006年〜毎年1回開催)
    札幌および近郊のパティシエを対象に、札幌や北海道の豊かな食材を活かし“さっぽろ”をイメージさせるスイーツを誕生させることを目的とし、ブランド化に貢献。
    【さっぽろスイーツスタンプラリー】
    その年の「さっぽろスイーツグランプリ」作品のレシピを協議会会員の洋菓子店に広く公開し、毎年決める共通ルールを守りながら、その店独自のアレンジを加えた“さっぽろスイーツ”を一斉に販売。洋菓子店の新たな販売手法となり、売上に貢献。
    【さっぽろスイーツカフェ】平成21年10月開店
    札幌市内及び近郊の洋菓子店の中から、5店以上のケーキ約40種類が、毎月まるごと入れ替わる、全国初めてのスイーツ・カフェスタイルのアンテナショップで、今回我々も実際にこの店舗に行ってみました。
    上記以外にも、各種イベントへの出店等を通じ、さっぽろスイーツのブランドは確実に浸透しており、スイーツ振興に大きく貢献しているとのことでした。

    今回この視察先をテーマに選んだ理由は、「商工会議所等との合同とはいえ、行政が特定の産業(お菓子)に対して、経済的な部分も含めて支援している」という取り組みに興味があったからです。補助額としては僅か(アンテナショプ補助は年間150万円程度)ですが、逆に僅かな金額で[刈谷市として全国へ発進出来るブランド作り]が出来るのであれば、商工会議所や観光協会を巻き込んだこうした取り組みトライしてみる価値があるのではないかと思います。

  3. 小樽市 小樽・北しりべし成年後見センターの設置について

    このセンターは、認知症や知的・精神障がい等により判断能力が十分でない方に対して、安心して住み慣れた地域での生活や尊厳する生き方ができるよう、成年後見制度などの利用促進を図るとともに、権利擁護に関する総合的な相談や支援をすることにより、地域福祉の向上に資することを目的として、小樽市、積丹町、古平町、余市町、仁木町、赤井川村の北しりべし6市町村を圏域とした広域での成年後見制度の健全な利用促進を図る拠点として、平成22年4月1日小樽市社会福祉協議会に開設しました。場所としては商店街のど真ん中、空き店舗になった場所を使っていました。

    平成13年度から平成21年度までの間で行なわれた[市長申立てによる後見受任]の件数は9年間トータルで17件、一方センターが設立された後の件数は2年間で31件ということで、予想以上に需要があり、一定程度の成果があったものと思います。

    以前、障害者福祉に関わっているある方から「神谷さん、刈谷市にも成年後見センターを設置して欲しい」との要望を聞いたことがあります。私の認識としては、成年後見というのは、基本は親族による後見、そうでない場合は第3者として弁護士・司法書士・社会福祉士などによるいわば[民間←→民間]でのものと思っていましたので、「どうして行政が後見センターを作る必要があるのか?」「そのセンターの役割はいったい何なのか?」という疑問がありましたが、今回の視察によりその疑問は全て払拭されました。この小樽市でも平成21年4月に弁護士等の専門職の方から「市が後見制度に対する公的な施設を建てないと大変なことになるよ」と言われたそうです。その意味するところは、高齢化率実に31%という小樽市においては、専門職のみではとても対応出来ずに、市民後見人に期待をしなければならないと言うことなのです。

    センターの設立当初は、専門職と市民後見人の複数後見で業務を担い、後見開始時の複雑な手続きは専門職が担当し、数ヵ月後のルーティン業務は市民後見人が担当することとしていましたが、このやり方は専門職の業務多忙により2年で破たんとなってしまい、現在は事務局職員と市民後見人(登録している市民後見人は29人で、実際に業務に当たっている方は19人)で、業務に当っているとのことでした。そういった点からも、市民後見人の養成は急務であるとともに、現在活動している方のスキルアップを図らなければならないとのことでした。

    老人福祉法の改正により、市役所の責務として市民後見人を養成することが求められるようになったことも伺いました。専門職の人手不足、更なる高齢化の進展、知らない第3者では不安(センター方式ですと、後見受任者が個人になるのではなく、公的な機関である後見センターが受任者となるため、安心でもあります)などの理由から、刈谷市でも今後センター設置の必要性が高まってくるのではないかと今回の視察で感じました。更に勉強し、適宜当局に要望して行きたいと思っています。

  4. 小樽市総合博物館について

    刈谷市では現在、旧体育館の北側に歴史博物館を建設する計画があり、こうした歴史博物館建設に向けて、その整備・運営面で参考とするために当初予定していた行政視察での空き時間を利用して、小樽市総合博物館を視察しました。施設の運営は観光協会に委託しており、年間の来場者は約10万人とのことでした。小樽市の場合、私の印象では語る(展示する)歴史は沢山あります。博物館の建物自体も旧小樽倉庫であり、ニシン漁に代表される漁業の歴史、アイヌ文化、鉄道、北前船などです。一方、刈谷市は・・・と考えると若干不安であります。また小樽市の場合、町全体が観光のまちですから必然的に観光客の入館割合が多くなるものと思いますが、刈谷市の場合は観光地ではありませんので他の目的で来た観光客が観光の位置拠点として歴史博物館を訪れるといった数は決して多くないはずです。であれば、歴史博物館そのものに来館することを動機付けるような魅力が必ず必要になってくるものと思われます。「この博物館を見るためにわざわざ刈谷に来た」という来場者を増やす必要があります。そういった意味では、計画段階から魅力ある歴史博物館作りに向けてしっかり取り組んでゆく必要があると思います。

    「来場者が増えるような取り組みを」と書いた一方で、今回の小樽市総合博物館を見て「博物館の意義は、単に来場者の多少では計りきれないものがある」という思いも持ちました。それは我々の祖先の歴史をきちんと保管し止めておくという使命です。先祖の営みを知るということは、日本人を知ることであり、我々自身を知ることに繋がります。そういった意味では博物館建設に対しては、「コストがどうか」「損か得か」「赤字か黒字か」といった考え方を余り前面に出すべきではないと思っています。教育・文化・歴史・スポーツ・音楽・・・こうした、人格形成に関わる事柄は、その施策全てが価値のあるものだと感じました。