文教委員会 視察研修所感
平成24年10月24日(水)〜26日(金)の3日間、文教委員会のメンバー7名と当局2名の合計9名で行政視察に行って参りました。
視察項目は
この3項目共に、現在刈谷市では行われていない事柄ですが、[市立図書館の指定管理委託]は何となくイメージが沸き、ある程度想像が出来たのですが、初日に訪問した大和市の[電子黒板]や、3日目に訪問した江戸川区の[子ども未来館]については、思っていた以上に素晴らしいものでした。参加した議員誰もが「刈谷市にもあったら素晴らしいのに・・」と思ったのではないかと思います。有効性を検証した上で、必要と有れば今後当局に実現を求めて行きたいと思います。以下、視察地ごとに報告します。
- 神奈川県大和市 市立小学校普通教室への電子黒板導入について
- 神奈川県綾瀬市 市立図書館の指定管理委託事業について
- 東京都江戸川区 こども未来館 及び 篠崎こども図書館について
大和市では、平成23年1月末までに、全市立小学校のすべての普通教室に電子黒板を導入しました。すでに設置されている50インチ地上デジタル波対応テレビに、電子黒板機能を付加し、さらにノートなどをテレビ画面に拡大提示できる実物投影機も併せて設置したもので、当日は実際の授業風景を深見小学校において見ることが出来ました。
電子黒板は、画面がタッチパネルとなり、コンピュータや実物投影機から取り込んだ画像に直接、文字や線を書くことができるなど、様々な授業に活用することができます。幾つかの教室で様々な教科の授業を見たのですが、例えば国語ではデジタル教科書を使い、漢字の書き順を視覚的に繰り返し指導したり、宮沢賢治が話の中で訴えたかったことが、情景や主人公を写真などで児童に見せることで、単に文字だけから著者の心情を読み取るよりもより鮮明にイメージすることがで出来ていました。また算数では、図形の面積の求め方を実物投影機に映された折り紙の図形により、より分かりやすく説明できるようになっていました。その他、画面はタッチパネルになっていますから、実物投影機から取り込んだノートなどの画像に直接文字や絵を書き込んだり、大事なポイントを拡大して強調したり、動画で表示する、実験の様子をその場で映すなど多様な機能があります。さらに電子黒板は、こうした教材提示だけでなく、子どもたちが学習成果を画面に映し出しながら、発表したりディスカッションしたりなど、コミュニケーション教育の推進にも役立っているとのことでした。こうしたことにより、電子黒板の導入は子どもたちの学習意欲や集中力向上に大いに役立つと高く評価をしておられました。
「こうした電子黒板が導入されることにより、従来の黒板は不要になるのか?」という疑問があったのですが、実際の授業では二つを両立して活用していました。つまり、授業の大きな流れを書き込む従来の黒板と、多彩で判りやすい表示が出来る電子黒板といった位置づけです。
導入の費用としては、既に50インチ地上デジタル波対応テレビが各教室に設置されていることを前提に、必要な[電子黒板機能の付加]と[実物投影機]設置は352台で約9800万円(パソコン代は別)ということですから、率直な感想としては「それほど高価なものではない」といった印象です。ランニングコストについても、教科書に準拠した指導用ソフトの購入・更新に費用が掛かる可能性がありますが、大和市ではそうしたソフトを余り活用せずに効果を出していましたので、いくらでもやり様があると思います。また[実物投影機]を使っただけでも、その効果はかなり高いものに出来るのではないかと感じました。
一方で、こうした電子黒板の導入により心配される事柄もあります。「電子黒板と付随したソフトに頼ることにより、教師の指導力が低下するのではないか?」「電子黒板を使うことが目的になってしまうのではないか?」という点で、質疑応答の中で委員からもそうした懸念が示されました。それらに対しては、大和市としても導入に当たり同様の懸念を持っておられたようで、「電子黒板の導入により、人間性や児童とのふれあいがおろそかになってはいけない」「子どもから離れるのではなく、導入により空いた時間でこれまで以上に子どもに接して欲しい」と指導しているとのことでした。
現在、刈谷市では電子黒板は一台も導入されていません。愛知県内における電子黒板の導入状況は、36市中12市が0台、導入している市についても、[各校1台]という市が最も多く13市、その他の市でも多くても一校当たり3〜4台程度です。
今回の大和市では「全ての普通教室にあることが重要で、そうでなければ有効に活用出来ない」とも言っておられました。今回の視察で実際に使用しての授業を見た限りでは、「費用対効果を考えれば刈谷市でも、ぜひ全普通教室に導入すべきだ」というのが率直な感想です。
刈谷市では平成16年4月に[つくし作業所]に対して指定管理者制度を導入して以来、現在57の施設が指定管理者によって運営されています。2つの保育園についても株式会社を指定管理者として運営するなど、全国的に大変注目をされる取り組みをしています。その一方で、美術館や図書館などは市が直営をしており、「図書館については市直営と指定管理者に任せるのとどちらが良いのだろうか?」という素朴な疑問と問題意識を持って、今回の視察に臨みました。綾瀬市では平成20年4月から指定管理者による図書館の運営を開始しました。目的は、公の施設における指定管理制度導入の目的同様「民間の能力やノウハウを活用して、住民サービスの向上と経費の削減を図る」ことにありました。では具体的に、どういった形でその目的が達成されたのでしょうか・・・。市直営の時と指定管理者制度導入後の比較で見てみたいと思います。
直 営 | 制度導入後(23年度末現在) | |
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職員数 | 職員 8人(内司書2人) 非常勤 18人(9人/1日) |
社員 6人(内司書6人) スタッフ 19人(内司書5人) 内訳 窓口 16人 装備 2人 配送 1人 |
開館日数 | H19年度 279日 | H20年度 327日 H21年度 327日 H22年度 329日 H23年度 331日 H24年度 330日 予定 |
休館日 | ・定期休館日 毎週火曜日・第3水曜日 ・館内整理日 第1水曜日 ・特別整理期間 (4/6〜4/15の10日間) ・年末年始 |
・定期休館日 本館:第3火曜日 分室:毎週火曜日・第3水曜日 ・館内整理日 第1火曜日 ・特別整理期間 (H24年度は4/3〜4/6の4日間) ・年末年始 |
開館時間 | ・本館 水・金・土・日 9:00〜17:00 月・木 9:00〜19:00 ・分室 水〜月 9:00〜12:00 13:00〜17:00 |
・本館 火・水・土・日 9:00〜17:00 月・木・金 9:00〜19:00 ・分室 水〜月 9:00〜12:00 13:00〜17:00 |
選 書 | ・出版情報による選書 | ・出版情報による選書と現物見計い選書 ・選書は市教育委員会の承認を得る |
装 備 | 業者委託 | 自館装備 |
納 品 | ・図書の選書から配架まで約2ヶ月 ・リクエストは1ヶ月 ・雑誌は週3回配架 |
・新刊図書、リクエストは約1ヶ月で配架 ・雑誌は発売日に配架 |
このように、職員(社員・スタッフ)の数は同じですが、開館日数は48日の増、開館時間については本館だけではありますが、週に1日延長開館の日が増えていました。その他では、見計らい選書の導入、納品時間の短縮など、制度導入の目的である「住民サービスの向上」には寄与していると思われます。一方、経費については、導入前と導入後では年間約1000万円ほどのコスト削減が図られている状況です。
今回の指定管理者は創業100年の歴史がある、(株)有隣堂という本屋さんでした。全国で現在300程度の図書館が指定管理者により運営されているようですが、その多くが綾瀬市同様、本屋さんが指定管理者として委託されているようであります。それは指定管理料として利益は出なくても、本の納入を独占できるというメリット故のことであると思います。そういった意味では、刈谷市が指定管理者を公募した場合、現在と同システムでの受託企業があるかどうか判りませんが、上記のようなメリット=[開館日数・時間の増加][コスト削減]が期待できるのであれば、導入について検討する価値があるのではないかと感じました。
このこども未来館は平成22年4月29日に開館した比較的新しい施設です。敷地面積は約1728平方メートル、述べ床面積は約1546平方メートル、建設費約6億円で、子ども専用の図書館と子ども未来館の複合施設となっています。この子ども図書館も指定管理者により運営がされている図書館でした。江戸川区には現在12の図書館があり、その内5館が指定管理者制度を導入していますが、来年の4月からは12館全てが指定管理者に変わるということです。今回はその図書館部門の運営よりも[子ども未来館]に注目して視察に訪れました。この施設の目的は「小学生の子どもたちに知的な興味関心を触発し、学び活動を誘発して豊かな探究心・創造力を培う。区の共育協働の理念『未来を担う人づくり』事業の一環である」とありました。こうした施設によく有りがちな目的で、これを読んだだけではどういった事業がされているのか想像が付きませんでした。しかし正に「百聞は一見に如かず」です。実際に訪問して、館長さんの話を聞き、施設を案内されて行くうちに、この目的にピッタリと合った事業を行なっており、素晴らしい施設と事業であることを実感しました。また、この施設の中に子ども図書館が存在していることの意義も十分に理解することが出来ました。
この未来館で行なわれている事業の中心はこどもアカデミーにあります。これは、様々な地域資源を教材に、専門家や身近な区民を先生役として、4つのコース・5つの活動で、子どもたちの多種多様な学習要求、学校教育では行なうことが難しい探究活動を提供していました。その中の1つに[クラブ・ゼミ]活動があります。これは半年から1年間かけて様々な知識や技術・考える力を身につけていく連続講座です。平成24年度には・・・
「宇宙と地球の実験室」
「社会のしくみを学ぶ もしきみが裁判官だったら?!」
「化学反応の不思議 〜まぜる・わける・あたためる〜」
「子ども未来館 せいぶつ部 〜100種類の生きものに出会おう〜」
「顕微鏡でのぞいてみよう! ミクロの世界(入門編)」
「アニメーションをつくろう!」
「クマムシの不思議大研究」
「子ども未来館 天文部」
「明日の天気をためしてみよう 〜みんなで作る雲・雷・雪〜」
「ものづくりマイスターをめざせ! アカデミー工房 season2」
「わたしの音ってどんな音 〜古池や かはず飛び込む 水の音〜」
「飛行機はなぜ飛ぶのか (基礎講座)」
「アカデミー新聞社 (みならい編)」
「水の中の小さな生きもの ミジンコ その世界」
「にこにこ野菜クラブ 〜屋上菜園で育てよう調べよう〜」
「組み立て&プログラミング はじめてロボット教室」
の16種類の講座があります。受講料は無料(但し、一部材料費は必要)、概ね小学4〜6年生を対象に開講していました。講座名を見て判るように、講座は理科の分野だけに限っているものではありません。「ここは科学館ではないのです」という館長の言葉の意味が良く判ります。また、実験や講座の中で自ら調べる必要がある場合には、館内にある子ども図書館で調べるのです。周辺に江戸川総合人生大学があり、そこから講座の講師として来てもらったり、内容によっては大学の著名な教授が講師として関わっているものもあるそうです。その他、地域の方がボランテイァなど様々な形で関わっており、講師の報酬も1回の講演で僅か1000円の場合から、3000円・5000円・1万円・2万円と様々ですが、概ね3000円が中心であるとのことです。図書館部分を除く未来館の運営費は年間約2600万円、クラブやゼミの事業費は年間約670万円です。
この施設の魅力を判りやすくお伝えする手段として、我々に熱心に施設の説明をして下さった館長さんの言葉を数点紹介しますと・・・
「図書館の改築の際に、ただ本を貸し出すだけでなく、様々な価値提供する施設を作ろうということでこの施設が出来た」
「建設時には、なぜプラネタリウムを作らないのだという意見があった。しかしここは、ハードを通じた体験ではなく、ソフトを手作りの体験をする場なのだ。プラネタリウムは周辺自治体に沢山あるからそちらに行けば良い」
「ここは、ヤル気のある子がやる場所→学校とは違う」
「カルチャーセンターになってはいけない→教え込み型はダメ→提案型の講座」
「次にワクワクして子どもが来る様な講座を開設」
「走るのではなく、走ることを科学するのがこの施設」
この施設を見学して、多くの議員が「自分の子供を通わせたくなる施設だね」と言っていました。私も同感です。刈谷市でも同様の施設が作れないか、強く感じた今回の視察でありました。