建設水道委員会 視察研修所感
平成25年10月16日(水)〜18日(金)の3日間、建設水道委員会のメンバー7名と当局2名の合計9名で行政視察に行って参りました。
視察項目は
台風26号の影響が心配されたのですが、新幹線での東京到着が1時間程度遅れただけで、ほぼ予定通りに視察を終えることが出来ました。以下、視察地ごとに報告します。
- 東京都府中市 インフラマネジメント推進計画について
- 群馬県太田市 水道事業における包括業務委託について
- 東京都三鷹市 まちづくり三鷹による地域活性化について
府中市では、市制を施行して以来、一貫して「道路、橋梁、公園、下水道」などの都市基盤施設の整備を進めてきました。しかし、これらのインフラは整備されてから30年以上経過しており、老朽化が深刻化していました。また、それに伴い、インフラの維持管理コストが莫大となることが想定されています。そのため、今後も引き続き安全なインフラを維持していくことを目的とし、管理コストの削減や平準化などの方法を検討する必要がありましたので、インフラの現状や設置年等の把握から将来の予測をし、管理にあたっての課題抽出などを行い「府中市インフラマネジメント白書」として、その結果がまとめられていました。
このようなインフラ白書は全国的にも事例が少なく、先進的な取り組みではないかと思います。そして白書の結果を見ると、府中市におけるインフラ管理に係る状況は極めて危機的な状況でありました。この状況を打開するためには、市と市民の皆様が協力して課題解決に努めていくことが必要です。そこで府中市ではこの白書を踏まえ、インフラ管理の方向性を示す長期計画である、「府中市インフラマネジメント計画」を策定し、今後40年間に亘るインフラの維持管理に対する計画がなされていました。
今回の視察に臨むに当たり、私は疑問に思っていたことがありました。それは「インフラに対する維持管理計画はもちろん必要だが、同時に公共施設に対するそうした計画はどうなっているのだろう」という点です。実際刈谷市では「公共施設維持保全計画推進事業」として公共施設に対する維持管理を計画的に進めています。その点を質したところ、この「府中市インフラマネジメント白書」に先立って、市が保有する建築物等についての施設機能・稼働状況・運営経費の調査結果などをまとめた「府中市公共施設マネジメント白書」が平成23年度に既に作成されており、今後は、建築物等とインフラとを同時に管理する計画と組織体制が採られていました。
このインフラマネジメント白書では、施設ごとの劣化状況やコスト状況、地域ごとの実態などを把握し、インフラのマネジメントを検討する上での条件を整理することで経費の分析が行われていました。分析の結果としては、インフラの同時期の老朽化が進む一方、近年の財政状況の悪化や扶助費等の増加に伴う経費の縮減が進んでおり、今後インフラを安全に利用するための機能を維持するには、現状の予算執行を継続するだけでは不足し、将来は、現状より約31%多い経費(下水道を除く場合)が必要になる見通しが示されていました。そして、そうした危機的な見通しを踏まえた今後のインフラ管理の方向性としては次のようなものでした・・・・
【インフラ管理全体(共通)の方向性】
@ 歳入の確保
ネーミングライツや各サービスの料金の適正化など、インフラ管理に必要な歳入の確保を検討します。
A 持続可能な財政運営
今後のインフラ管理のあり方について、全庁的かつ総合的な視点で方向性を検討する必要があります。その考えのもとで、持続可能な財政運営を可能とする財政負担の軽減や、平準化に向けた取組みを検討していきます。
B 集約化・合同化による効率化
公園や橋梁等では、利用の低い施設等を集約化することにより、管理や運営にかかる経費を集約させます。また施設の更新時には、施設の廃止や簡素化など、施設の集約化と合同化を検討します。なお、施設の新設が必要の際には、既存施設などの廃止などを検討し、総量の増加を抑制します。
【維持管理の方向性】
C 業務の見直し等によるコスト削減
インフラの劣化状況を踏まえ、市が行う業務において事務処理方法の見直しや効率化を行います。そのことにより、サービス水準をできるだけ下げないようにする中で、コスト削減に取り組みます。
C-1 運営面の効率化
市が現状で行っている業務の効率化を検討します。また、市民などからの要望があった事案について、安全性確保のために必要な整備かどうかを見極め、事業の選択と集中を行うことで過剰な整備の防止に努めます。
C-2 包括的民間委託手法の検討
運営の効率化や運営方式について、公共的な役割が少ない業務などについては、民間事業者のノウハウを活かすための業務委託や包括的委託などの可能性を検討します。
C-3 管理情報の電子化による効率化
道路や公園の管理のための保管データや図面を電子情報化することより、業務の手順や方法の効率化が期待できます。また、こうしたソフト面でのITの導入は必要とする施設の構成や内容にも影響することから、これらを総合的に検討します。
D 市民との協働による管理
インフラに係る現状や財政状況を積極的に公開し、市民が現状を正確に把握できる状態をつくります。また、インフラ管理に関する市民との協働の推進のための施策を検討します。
【補修更新の方向性】
E ライフサイクルを通じた効率化
各施設の補修更新の計画を策定する際には、インフラのライフサイクルコストを低減させる視点から検討します。具体的には、予防保全の考え方を基本とし、補修時期や整備内容等について最も適した計画を検討します。
F 管理水準の見直し
「インフラ管理のあり方の方向性」の取組みでコスト削減を行っても、なおコスト不足によりインフラの機能を維持することが困難であると判断される場合は、安全性の確保を前提にインフラ管理水準の見直しを検討します。
今回の視察を終えて感じたことは、「刈谷市においても決して他人事ではない」ということです。府中市では[現状の問題点]として次の5つを挙げていました。
@ 維持管理への長期的な視点の不足
A 市の予算の全体的な不足
B インフラ管理に費やすコスト削減への取組み不足
C 全庁的な各施策間の調整の不足
D 民間企業や市民の活力活用の不足
これらは近い将来刈谷市にも問題点として露呈する可能性がある事柄ばかりです。刈谷市としても早急に公共施設(建物)同様、インフラの維持管理・更新についても全庁的に計画を持って進めて行く必要があるのではないかと強く感じました。
今回視察した太田市では以前より、毎年行われる全庁規模での人事異動が事務・技術の専門能力の育成を阻害しているのではないかと感じていました。また、「水道局職員でなくてもできる仕事は極力外部に業務委託する」・「お客様満足度の向上」・「窓口サービスの向上」・「人件費の削減」「財政上の問題」などから、現状で行われていた委託業務の見直しを行い、平成19年度から「政策形成及びその決定」、「許認可や処分」、「公平性の確保」以外の業務を包括して委託することにしました。委託した主な業務は、第三者委託(水道法第24条の3)、公金の徴収又は収納委託(地方公営企業法第33条の2)、給水装置工事関係業務(水道法第24条の3を含む)等の法に基づく委託、配水管等漏水修繕待機やメーターの一斉取替え、庁舎管理・芝樹木管理等の既に委託済みの業務に加え、経理事務補助や広報紙・ホームページの作成・各種調査のデータ集計・消耗品管理等の庶務事務までを委託対象としたのです。
当時「包括業務委託」という事例は国内に例がなく、コンサル業務を行う業者、受託できる業者も存在していなかったため、平成18年度より、委託会社選定のための準備が始まり、プロポーザル実施要領の作成、業者選定基準の検討、審査委員会の設置など暗中模索での作業が開始されました。水道事業全般を受託できる企業は存在しないため、複数業者による共同受託を認め、それぞれの委託業務に対して、過去の実績を参加条件とし、公募型プロポーザル随意契約方式により業者選定を行いました。プロポーザルの結果、古くから太田市水道事業の委託を受けていた、明電舎・GCC自治体サービス・水道管理センターのグループに決定し、3社が共同出資し(株)ABSを設立し合同企業体として業務を受託していました。当初の契約内容は、平成19年度〜平成23年度の5ヵ年契約を本契約とし、業務委託契約は1年ごとに行い、毎年業務移行状況をチェックし、委託業務を増やす等の変更が有機的に行うことができるようになっていました。
包括業務委託を行ったことによるメリット・成果としては、平成18年、包括業務委託導入以前の水道局員の人数は52人だったものが、現在は22人になるなど30人(約58%)の人員削減に成功していました。経済効果としては5年間で約20%、金額で約7億円の削減効果がありました。一方、市民の反応はどうかと言うと、太田市では毎年市民アンケートを行っており、事業ごとに「満足度」「重要度」が数値で表さているのですが、包括業務委託の前と後で、どちらの数値も前年同様の値を示しており、円滑な運営が行なわれているのではないかと私は思っています。
説明の最後に、パワーポイントの画面に[包括業務を出前します!!][包括業務委託導入を検討中の事業体 何から手をつければよいかお悩みの事業体]→[連絡ください]=「具体的な事務手続きやスケジュールの組み立てについて、お伺いして、お話をさせていただきます。それぞれの水道事業体により、委託形態は様々に変化します。直接お伺いした中で、適した形態を一緒に検討し、包括事務導入のお手伝いをさせていただきます」との画面が表示されました。刈谷市は現在、料金徴収や検針業務については委託をしていますが、包括委託には至っていません。検討した結果、導入を見送ったのか、それともそもそも検討すらしていないのか・・・一度、検討してみる価値はあるのではないかと感じました。
三鷹市は新宿から20分ほどのところに位置する典型的なベッドタウンです。市内には市街化調整区域が全く存在せず、全て市街化区域で、その用途地域も準工業・工業地域といった工業系の用途地域は僅か5.2%、商業系が5%、その他は全て第1種低層住居専用地域となっており、工場の誘致は出来ない状況で、税収も個人市民税が税収全体の46%であるのに対して法人市民税は僅か5%にしか過ぎません。こうした状況の中、少子高齢化の進展により[生産年齢人口は減少][社会保障給付費の増加]という予想で、三鷹市では以前から新たな産業=税収の確保に取り組んできました。そうした中、平成10年より住宅都市と共存できる新たな産業として「SOHO(small office home office」に注目し、「SOHO CITYみたか構想」を定め、インターネットやパソコンを活用した情報通信関連いわゆるIT事業者の集積と振興を図ってきました。そして平成11年には、中活法のTMOとなる「株式会社まちづくり三鷹」を三鷹商工会、市内事業者とともに設立し、三鷹駅前の商業発展とIT事業者の集積という両軸に足をおいた中心市街地活性化事業に取り組んできています。今回は、三鷹市役所への視察ではなく、この(株)まちづくり三鷹を訪問して、その事業内容や効果・課題、収支決算などについて勉強して来ました。事業内容は・・・
(1)中心市街地の活性化事業
「三鷹電子商店街事業」
地元商店街の販売促進と販路拡大に向けて「地域密着型の電子モール」を構築し、24時間、全国にネット販売を13年度から開始。現在120店舗が参加し、共同決済、共同配送、市内無料配送を実現してきた。それにより個店のITが進むとともに顧客情報の蓄積を図っている。
「三鷹産業プラザ1期2期の建設整備」
地域から新たな産業を創出するために、SOHO及び都市型産業が集積できるよう、独立行政法人中小企業基盤整備機構(前地域振興整備公団)とともにインキュベーション施設として平成12年に第1期三鷹産業プラザを建設整備した。入居企業28社ユニット、地域情報センター(SOHOサロン)を整備してきた。
その後、リノベーション補助金、高度化無利子融資を活用して、まちづくり三鷹が単独でテナントミックス事業として第2期三鷹産業プラザを建設。商業店舗として16店舗、ITルーム2室、会議室3室が整備された。
(2)SOHO CITYみたか構想の推進
「コーディネート相談事業」
三鷹産業プラザでは、毎日無料にて企業の社長による創業や経営の相談、三鷹経営コンサルティング協会による専門相談が実施され、身近での創業支援環境を整えている。加えて、技術アドバイザーによる三次元計測器の測定指導も行っている。
「ビジネスプランコンテスト」
地域から創業者や優秀なビジネスモデルを発掘するために、平成13年からビジネスプランコンテストを開催してきた。賞金だけでなくコンサルティングを重視するとともに、場合によっては、TMOによる株式の取得(投資)による支援を行っている。
「ベンチャー カレッジ」の開催
シニアや主婦層の創業を促進するために、創業塾を開催。講師陣は全て地元の人材に依頼し、受講後に地域人脈になるようにしかけている。
「NPOとの連携事業」
NPOシニアSOHO普及サロン・三鷹とは、パソコン講習会等を通じて、高齢者の地域社会でのプラットフォーム形成を支援している。NPO子育てコンビニは、みたか子育てねっとの運営事業を行っている。
(3)都市型産業の育成事業
「地域新生コンソーシアム事業」
三鷹の光工学関連企業、大学そしてまちづくり三鷹との産官学の連携により、「医療用高解像度立体視顕微鏡」の開発とそれに必要な手術用針と糸の試作開発を行ってきた。産官学の恒常的な連携を進めるために「三鷹光ワークス」を構築し「レンズがわかるセミナー」やCADを使った「レンズセミナー」などを開催し、光工学関連の人材育成を進めている。
こうした事業を進めた結果、事業の効果としては次のようなものです・・・
三鷹産業プラザを中心にソフト事業とハード事業が総合的に実施され、新規事業所の立地集積と従業員が増加しただけでなく、中央通り商店街の来場者(通行人)が増加した。加えて、多様な事業展開をすることによって,商業、工業など既存事業者とITやSOHO事業者との交流や事業連携が図られ、幅広いビジネスチャンスが生まれている。
一方、事業の課題としては・・・
まちづくり三鷹やSOHO倶楽部(SOHO同士が作った任意団体)が中心になって、空き店舗や空きオフィスを借上げてインキュベーション施設を整備してきたが、いまだにオフィス需要を満たすことができない。特に、SOHOから一定規模となった企業が入居できる500平方メートル程度のオフィスが整備されていない。加えて、中心市街地では、商業店舗の跡地がマンション主体の住宅開発に偏り、店舗・オフィスなど都市機能のバランスが悪くなっている。中心市街地の賑わいを創出するためには、観光事業を本格的に実施することや魅力ある人材の創出やコンテンツなどを探し出すなど新たな視点が求められている。
*[事業内容と効果・課題]については、HPより抜粋
私の地元の刈谷駅前商店街では、平成12年の中心市街地活性化基本計画策定以来、様々な事業を行なって来ました。それらの事業の継続と、更にまちづくりを発展させるためには専属の事務局機能が必要との考えから、今年の5月に[NPOまちづくりかりや]を設立しました。[オール民間資本]VS[第3セクター]、[株式会社]VS[NPO]などの違いはあるのですが、どちらも同じ地域の活性化に寄与する[まちづくり会社]であるという点で、今回のまちづくり三鷹が採算の点でどうなっているのか特に関心のある点でした。
今回視察したまちづくり三鷹は三鷹市が98%以上を出資する第3セクターであります。決算書を見る限りでは平成25年3月末までの14期間、金額の多少はありますが全て黒字決算でありました。「こうした3セクの場合、一見すると黒字決算だが実は、市からの補助金が入っていたりとか、市からの委託業務の単価がかさ上げされたりして、見かけを良くしている場合があるが、どうか?」といった、失礼な質問をしたのですが、そのどちらも「ない」ということでした。但し、収益構造を見る限りでは、施設管理運営事業売上が売り上げ全体の約50%、5億5000万円ほどを占めて、収益も約1億8000万円ほどを上げており、「床を賃貸した利益で、地域の産業活性化のために再投資」といった構図ではないかと想像されます。一方、まちづくり刈谷には残念ながら、賃料収入で収益を保つだけの資産がありません。この組織が今後継続・発展してゆくためのポイントはやはり・・・
1.収益事業による安定した財源を如何に確保出来るか
2.行政や商工会議所などと如何に連携して行けるか
に掛っているのだろうと思います。ただ、今回のまちづくり三鷹を見た限りでは、商店街の活性化であるとか地域のインキュベータとしての役割を担うといったことは、行政が直接行うよりも、柔軟に対応することが出来るという点で、こうした地域のまちづくり会社に任せた方が様々な可能性が膨らむのではないかと感じました。[NPOまちづくり刈谷]本音を言うと心配な点もありますが、期待もそれ以上にあります!