視察研修所感
平成26年10月2日(木)〜3日(金)の2日間、志誠会のメンバー2名と公明クラブのメンバー2名の合計4名で行政視察に行って参りました。視察項目は・・・
- 広島県尾道市 スローフードのまちづくりについて
- 岡山県総社市 障がい者千人雇用の取り組みについて
- 広島県尾道市 スローフードのまちづくりについて
- 岡山県総社市 障がい者千人雇用の取り組みについて
尾道市の人口は刈谷市と同程度で約14万4千人、市の面積は284.85kuと刈谷市の6倍弱で、瀬戸内海に面した海・島と山地、丘陵が織りなす多用で豊かな自然のまちです。そうした恵まれた自然により農産物や魚介類などの食材が豊富で、わけぎ・レモン・ネーブルは全国1位の出荷量を、そのほかすいかやきぬさやえんどうなど7品目については広島県1位の出荷量を誇っています。そうした「食」に恵まれた最高に贅沢なまちであ
る尾道の食材を「知ってもらいたい! 食べてもらいたい!」という思いで始まったのが、今回の視察項目であった[スローフードのまちづくり]なのです。
そもそも[スローフード]とは「地域には地域固有の食材や食文化がある。普段何気なく口に運んでいるものについて、一度じっくり見つめ、地域の伝統的な料理や食材、文化を大事にしていく」という考え方で、この運動は食の画一化・荒廃を懸念する市民によって1980年代後半にイタリアで起こり、以後、世界153カ国15万人を超える人々が運動に参加しています。そして、尾道市でも平成20年度から[おのみちスローフードまちづくり推進事業]が始まりました。その目的として「尾道が誇る海と山からの恵みである食材やそれを支えている生産者を守り、独自の食文化を引き継ぎ、食育を進め、自然と調和する住みよいまちにしていく」ことを掲げ、事業を推進するために次の4つの柱が定められていました。
@.自然環境の保護
A.地域の食材の提供
B.生産者の保護・育成
C.食を通した教育の推進
この4つの柱を見て最初に思ったことは「これは、何処か一つの課だけの単独で出来る事業ではないな」ということです。実際、「食」は健康・教育・福祉・環境・産業・観光などまちづくり全体に通じるキーワードであるとの発想から、全庁的に複数の課が関わっていました。そしてそうした市役所だけでなく、おのみちスローフードまちづくり推進協議会が結成され、事務局は尾道市の農林水産課が担っていますが、その構成メンバーには[尾道市農業協同組合][尾道市水産振興協議会][三原農業協同組合][尾道市社会福祉協議会][尾三地方森林組合][尾道市教育委員会][尾道市公衆衛生推進協議会][尾道市]と、様々な分野に亘る団体が所属していました。従って、実施する具体的な事業も様々な分野で多岐に亘っています。
@.自然環境の保護として
海環境保全事業(農林水産課)
森づくり事業(高見山森づくり実行委員会)
ひろしま『山の日』県民の集い(県民の集い尾道会場実行委員会)
A.地域の食材の提供としては
PTC活動における親子料理教室(健康推進課)
はじめてのキッズ・キッチン料理(生涯学習課)
おのみち旬食再発見講座(生涯学習課)
水産物PRイベント(協議会単独)
「わけぎ」の街頭宣伝(JA尾道・農林水産課 連携)
地産池消ツアー(協議会単独)
「尾道 季節の地魚の店」認定事業(農林水産課)
学校給食での地元農水産物の利用や伝統料理の導入(教育委員会など)
B.生産者の保護・育成としては
「おのみち季節の魚20選」レシピ作成(協議会単独)
わけぎの食農体験事業(農林水産課)
尾道の魚をさばこう支援事業(農林水産課)
むかいしま・おさかな参観日(向島支所しまおこし課)
季節の魚20選「おのみちの地魚で干物を作ろう」(協議会単独)
C.食を通した教育の推進としては
学校での食育への取組み(教育委員会)
保育参加日での食育講座(子育て支援課)
歯ッピーフェスティバル(健康推進課)
子育てサロン(尾道市社会福祉協議会)
御調Let’s食育(尾道市社会福祉協議会)
「食材の宝庫 おのみち 大地の恵み 海の恵み」
チラシ・パネル等の作成配付(協議会単独)
このように多くの事業を、様々な関係団体が主催しあるいは団体間で連携して行っていました。しかし残念ながらこうした事業に関するアンケートを行ったところ、「スローフード」の言葉の認知度は僅か33.9%と低く、また地元農産物を優先して購入するという方の割合も31.7%という結果でした。事業の分野が幅広いため、施策として見えにくいことが原因ではないかと思います。また、折角地元で誇ることの出来る食材が豊富にあるのですから、地元の食材を地元の人にPRするだけの取組みではなく[尾道ブランド]として全国的なPRも進めて行ってはどうかとも思いました。
刈谷市において障害者へのサービス提供を行い今年で10年目となるNPOくるくるさんから「神谷さん、岡山県の総社市において市長の提唱により障害者を1000人雇用させる興味深い施策を行なっているよ」との情報を頂きました。就職や雇用というのはハローワークを中心に「県の行う業務」という意識でいましたから、「市が雇用の分野、しかも健常者ではなくて障害者の雇用にまで施策として踏み込んで行くとは・・・」、市長さんの考え方や、具体的にどのような取り組みでその施策を推進して行ったのかなど様々な疑問と共に興味が沸き今回の視察となりました。そしてこの視察の日を迎える前の9月20日「総社市の片岡市長が愛知県弁護士会主催の講演会に講師として来られ、今回の障がい者千人雇用の取り組みについて話をされる」との情報を得ました。この施策に取り組んだ市長さんの思いを生で聞くことので来る絶好のチャンスです。その講演会にも事前に参加をしてから今回の視察となりました。
平成20年9月に襲ったリーマンショックにより総社市内でも約2000人以上が職を失うという大きな打撃を受けました。そして市長が「障害者の千人雇用」を打ち出したとき、総社市の18歳〜60歳の障害者1200名の内、働いているのは僅か180名でした。市長の打ち出した目標に市職員は全員「無理です」「反対」との態度。その当時の有効求人倍率は0.29倍ですから「健常者すら職がない時になぜ障害者なのだ?」という声が出るのも無理のないことです。しかし市長は「船が沈む時、最初に救命ボートに乗るのは弱者でなければダメなのだ」の信念で施策を推進したところ現在では787名になったとのことでした。他市では行なわれていない何か特徴的な施策を遣る時にはトップの強い意志と決断が絶対に必要なのだと感じました。ではその強い意志を受けて施策を具体的に実施して行くのにどのような取り組みをして行ったかを時系列に整理して報告したいと思います。
◎平成22年12月 新設の県立支援学校の設立地がお隣の倉敷市に決定
「支援学校を卒業した後の働く場所は、総社市が担っていこう」と強く決意したとのこと
◎平成23年4月 「障がい者千人雇用」を開始(平成27年度末までの5ヵ年計画)ハローワークや企業関係者、障害福祉の専門家、大学教授、支援学校校長、障害当事者など17名で構成される[障がい者千人雇用委員会]が設置され課題を抽出し、今後の方向性などを整理した「中間報告書」が取りまとめられました。
◎平成23年7月 「就労支援ルーム」の設置
ハローワーク総社と「福祉から就労」支援協定を締結したことを受け、市職員2名がハローワークに常駐することになりました。今回の事業にはいくつかの「凄い!」と思う点がありますが、このハローワークとの連携、それに基づく市職員の常駐もそのうちの1つであり、こうした「凄い取り組み」が今回の事業推進の原動力であると思います。
◎平成23年10月 総社商工会議所と包括協定を締結
会員数約900社の商工会議所会員企業に対して、国のもつ各種助成制度の周知や雇用意識調査、福祉的事業所などの見学を行なって受け入れ企業の掘り起こしと受け入れの可能性を広げました。市がいくら頑張っても受け入れ先がなければ前に進みませんから非常に意義のある協定締結であると思います。
◎平成23年12月 「障がい者千人雇用推進条例」を制定
障がい者千人雇用実現のための基本的事項や市・企業・市民の役割を明文化したものです。敢えて条例を制定しなくてもこの事業は推進出来るのかもしれませんが、条例を制定したことにより、担当課としては予算確保の際のいわば「錦の御旗」を得ることが出来た、つまり予算の必要性の大義を持つことが出来たことが大きいのではないかと思っています。その他には、他の課の協力連携も条例により得やすくなるはずですし、単に「市長の重いが強い施策」に止まらず、市長が万が一交代しても継続性が担保されたオール総社市しとしての重点施策なのだとの確認が得られた効果が大きいと思っています。
◎平成24年1月 総社市主催の障がい者就職説明会を開催
市主催によりハローワーク総社・雇用開発協会・商工会議所と共に障がい者と企業との出会いの場づくりを行いました。先程書いた「凄い!」と思うことの2点目です。こうした出会いの場を市が主催していることは凄いことです。第1回目(24年1月)は13の事業所と50人の障害者が参加して14人の就業に結びつく。第2回目(25年1月)は16の事業所と40人の障害者参加して9人の就業に結びつく。第3回目(26年1月)は17の事業所と43人の障害者が参加して5人が採用内定とのことで、確実な成果が出ています。
◎平成24年4月 「障がい者千人雇用センター」を設置
マッチングと生活支援の拠点としてセンターが設置されました。社会福祉協議会が運営の委託を受け、障害者就労・生活支援センター及びハローワークから職員が派遣されていました。これはもしかしたら、県の設置事業である障害者就労・生活支援センターと同じようなものを市が単独で作ってしまったということかなとも思えます。であればこれも「凄い!」の3点目です。
◎平成26年6月 「就労移行支援金制度」の創設
福祉的就労から一般就労へ移行し、6カ月以上経過した方に10万円を支給する市独自の制度です。
こうした取り組みにより、平成23年4月には福祉的就労100名、一般就労80名の合計180名であった障害者の就労が、今では福祉的就労332名、一般就労455名の合計787名となりました。
今回、市役所内での説明以外に2箇所の現場も見学させて貰いました。1箇所目は市役所中庭を活用して障害者団体がランチスペースを提供しておられました。2箇所目はそれまで福祉的就労事業所にいたAさんが週20時間の短時間労働者として正規雇用されている国民宿舎サンロード吉備路です。Aさんの主な日常的な仕事は園地等の雑草取りということで、施設管理者の補助的業務に従事されておられました。そして3箇所目に訪問した所には驚きました。ガソリンスタンドに障害を持った方が働いておられるのです。しかもこのガソリンスタンド自体が、就労継続支援B型の作業所になっているのです。いわば、刈谷市におけるすぎな作業所のガソリンスタンド版なのです。従って、そこで働いている健常者はスタンドのスタッフでありながら、作業所の支援員つまり彼らには支援費が支給されているのです。こうした作業所での仕事と言えば「工賃の低い、製造業での内職のような仕事ばかり」と言ったイメージいましたので、こうしたサービス業での作業所があることに驚きました。社会福祉法人が営むガソリンスタンド・・・こうしたものに税金が投入されていることに対して、若干の疑問もありますが、発想としては奇抜であり、障害者福祉のあり方を柔軟に考えるという意味では重要なことではないかと思いました。
今回の2つの市を通しての感想としては、こだわりを持った他市にはない特色のある施策を行なう時の出発点は、市長の強烈な志と強い思い、そしてそれを推進するリーダーシップとそれを支える全庁的な組織作り・・・それに尽きるという感想です。具体的な施策と共に、その必要性を強く感じた今回の意義ある視察でありました。ただ、残念なことは、2日目の総社市において時間が少なかったことです。現地での視察もありましたから、もう少し市役所での説明・質疑応答の時間を長くもつような計画にしておけば良かったと後悔しています。